Mountain Kuma’s Blog

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山登り好きな循環器内科医のブログです。

山岳遭難を減らすには 〜METs(メッツ)ってご存じですか?〜

 

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峰ノ松目沢


山岳遭難を減らすには、自分の体力を客観的に評価することが重要です。

 心肺運動負荷試験(CPX)という検査を受けることで運動量を定量することができます。
METs(メッツ)と言う概念を理解することで、なぜCPXでそのようなことができるかわかります。

METs(メッツ)とは?

METsとは「安静座位を1METとしたときに様々な身体活動がその何倍の運動量(エネルギー消費量)であるか」を示す指標です。
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このMETsが便利なのはエネルギー消費量(カロリー計算)を簡単に計算できるという点です。
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上の図で示すように「消費カロリー = METs × 時間 × 体重」という式が成り立ちます。ここでいう消費カロリーとは「活動により消費されたエネルギー+安静時代謝量を合わせた総消費カロリー」のことです。
このあたりのことはGoogleなどで調べればたくさん情報が出てきますので割愛します。

 

登山で必要なMETsは?

では登山は一般的にはどのくらいのMETsなのでしょうか?

・ハイキング     6METs
・一般登山      7METs
・バリエーション登山 8METs
と言われています。
ただし、これはあくまで登りを主体に考えた場合なので、実際の登山においては下りもあれば平坦な道もあります。
そこでカロリー計算の際には-2METsします

つまり・・・
一般登山における消費カロリーは、

    「5 × 行動時間 × 体重」
                ということになります。
 
ただし、これはあくまで一般論です。
登山が趣味の方はご存じのように登山ルートによって健脚向きな厳しいルートもあれば、比較的体力がなくても登れるルートもあります。  このMETsについてもう少し深く説明します。

 

METsとは酸素消費量のことである

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1MET、すなわち安静時のエネルギー消費量は体重当たり1分当たり3.5mlの酸素摂取量に相当します。

つまり、上の図の通り「1MET = 3.5mL/min/kgの酸素摂取量」となります。

 

エネルギー消費量は酸素摂取量で換算できる!


ヒトは酸素がないと生きていけません。
なぜでしょう?
 
酸素を使ってエネルギー産生することを前提にできているからです。酸素を用いないエネルギー産生(解糖系などのいわゆる無酸素運動)でもエネルギーは産生できますが、エネルギー効率が違います。
 
1個のブドウ糖から産生されるエネルギー量が有酸素運動無酸素運動の18倍ぐらいあるのです。
 
なので、基本的にヒトは酸素を使ったエネルギー産生を行います。
 

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ヒトは酸素を取り込み、肺から血液中に吸収されます。
一方で、食物も口から摂取され、胃腸で消化・分解されて糖分と脂質となり、吸収されて、血中に入ります。

血中に吸収された酸素と食物は心臓のポンプ機能を介して全身の筋肉に届けられ、筋肉細胞内にあるミトコンドリアでエネルギーと水と二酸化炭素を産生します。
 
1分間当たり1kcalのエネルギーを産生・消費するのに、200mlの酸素を摂取する必要があります。
  「1kcal/分のエネルギー消費=200ml/分の酸素摂取
ということになります。
 
つまり、
  「エネルギー消費量は酸素摂取量に換算できる」のです。
 
運動量すなわちエネルギー消費量を直接測定するのは非常に難しいです。
一方で、酸素摂取量は呼気ガスモニターを使えば比較的簡便に測定できます。
CPX(心肺運動負荷試験)もその一つであり、運動負荷を行いながら、呼気ガスモニターで運動中の酸素摂取量を測定することで運動量が定量化できるのです。
 
とまあ、小難しい話をしましたが、結論として言いたかったのは「CPXを受けることで、運動耐容能(体力レベル)が客観的に評価できます」ということです。
それだけ覚えていただければ十分です。