Mountain Kuma’s Blog

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山登り好きな循環器内科医のブログです。

心房細動治療を経て、再び夢の頂へ〜三浦雄一郎氏の挑戦

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心房細動は中高年に最も多くみられる不整脈です。
心房細動になると運動耐容能の低下を招き、時に心不全脳梗塞を引き起こすことがあります。

70歳、75歳、80歳で3度エベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんですが、70歳でのエベレスト登頂後に心房細動によって登山ができなくなった時期がありました。
 
その後、土浦協同病院でカテーテルアブレーションという不整脈カテーテル治療を受けて、75歳、80歳でのエベレスト登頂を果たしています。
 
「何歳になっても夢をあきらめない。そのためのサポートとして適切な治療を受けていただく」
そういう想いでアブレーション機器を開発・販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンと土浦協同病院によって作られた動画です。

何歳になっても挑戦を続けたいなぁと思わせるワクワクする内容なので、是非ご覧下さい。

 

www.jnj.co.jp


心房細動は加齢と共に誰でも発症しうる不整脈です。
適度な運動は心房細動予防になりますが、一方で激しい運動は心房細動の原因となり、特にアスリートには心房細動が多いとされています。
 
心房細動になると運動耐容能がかなり落ちるので、今まで通りのパフォーマンスを発揮できなくなります。
 
当院でも年間100例以上の心房細動カテーテルアブレーションをしています。
私の外来や登山者検診でもスキーや登山が趣味の方に心房細動が発見され、カテーテルアブレーションをしたことで劇的に改善している方が何名かいらっしゃいます。
 
もちろん万能の治療ではありません。制限や限界はあります。
しかし、この治療で元気になる方は確実にいらっしゃいます。
 
「最近疲れやすい」「以前より登れなくなった」というのは単に歳をとっただけではなく、何かしらの心疾患を発症している可能性があります。
一度、病院で適切な検査・治療を受けてみて下さい。
何歳になっても夢をあきらめないために。

低山シリーズ 林城跡

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低山はあまり好きではないのですが、低山トレーニングは山岳遭難を防ぐ上でとても大切です。
ということで、地元松本から登りやすい低山を紹介してみようと思います。
 
本来は黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳にテント泊でいくつもりでした。
しかし、新型コロナウイルスの影響で急遽、七丈小屋が休止になりテント場も使えないということになってしまいました。
 
雪山なのでテント泊そのものはどこでもできるのですが、自粛を促している山に行くのもなぁということで、今回は登山は断念しました。
 
その代わりに思いついたのが「林城跡」です。
松本市のHPを見ると松本市教育文化センターに駐車して歩いてアプローチすることになっているみたいです。

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今回は黒戸尾根の代わりでもあるため、トレーニングをかねて20kgのザックを背負って出来るだけ早足で登りました。
最初は小走りで登ったらものの2-3分でバテバテになってしまったので、結局その後は早足程度で登りましたがBorg17ぐらい(かなりきつい)の登りになりました。

(Borgってなんだっけという方はコチラ)

 

 

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山頂?は城跡なのでこんな感じでのんびりできます。

早足で登ったため、20分ほどで山頂につきましたが、ゆっくり登れば30分ぐらいでしょうか?
山頂はあまり展望はないものの城跡だけあって広くきれいに整備されていて気持ちのいい空間でした。
 

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登山道の途中からは北アルプスもきれいに見えますし、地元の方が低山トレーニングとして使うにはちょうどいいかもしれません。
標高差は214m(実測)ですので、トレーニング代わりに使うなら週に1回2往復ぐらいした方がよさそうですね。
 
ちなみにこのルートは頑張れば、鉢伏山を経由して岡谷市まで歩けるみたいですよ。
健脚の方は挑戦してみてもいいかもしれません。
 

 

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下山中にはカモシカにも会いましたが、本日すれ違った人はランナーお一人だけでした。
 
新型コロナの影響でStay Homeが叫ばれていますが、低山で気持ちも体もリフレッシュして心身共に健康を維持しましょう。

夜叉神峠から鳳凰三山日帰りピストン

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 3月の3連休で夜叉神峠から鳳凰三山を日帰りピストンしてきました。

本来は高所順応をかねて昨年強風で敗退した富士山に行く予定でした。
前泊して未明から登るために富士山に向かっている最中にヤマテンの天気予報をみると風速28m/s予報。前日の段階から強風予報だったが弱まるだろうと楽天的に考えていたがまさかの強風悪化。昨年の敗退の経験からは富士山での風速28m/s予報はやばそう。結局トライしてもまた敗退するだろうし、最悪滑落の可能性もある。
PAでいろいろと悩んだ結果、鳳凰三山に変更することにしました。

鳳凰三山百名山だからいつかは登りたいと思っていた山だし、富士山に登るつもりで入れていた気合いも標準コースタイム14時間半の行程であれば受け止めてくれるであろうと、いろいろと自分を納得させて...。
西風が強い予報だから鳳凰三山なら白峰三山が守ってくれるしね・・・。

アクセス

自家用車で夜叉神峠駐車場までアクセス
駐車場は3連休のためか結構停まってました。

駐車場のトイレは男女共用で一つだけ開いてます。
一応、紙もありましたが残りわずかで補充されるかもわからないので持参した方が無難です。
電気はつきました。手洗いは使えません。

 

登山データ

出発時刻/高度: 01:59 / 1384m
到着時刻/高度: 14:40 / 1374m
合計時間: 12時間41分
合計距離: 23.75km
最高点の標高: 2807m
最低点の標高: 1360m
累積標高(上り): 2040m
累積標高(下り): 2050m

 

コース状況

夜叉神峠の少し手前から雪が出てきますが、この辺りはツボ足で問題ありません。

夜叉神峠~杖立峠の途中がアイスバーンなっているためチェーンスパイクをお勧めします。アイゼンでもいいですが、アイゼンの爪は削られるでしょう。

杖立峠から先はアイゼンでも問題ないぐらい積雪がありました。
ここから観音岳まではトレースばっちりで完全に雪道になっているので歩きやすいです。

南御室小屋にはテント村ができてました。外トイレもあり、使わせていただきました。
樹林帯ですが昼間は日当たりも良くいいところですね。

南御室小屋から薬師への最初の登りが急なので、ここでアイゼンをつけた方がいいと思います。

森林限界を超えて以降は花崗岩特有の白砂が出ている箇所もあります。
観音岳までは明瞭なトレースがあり、危険箇所もないためピッケルは不要です。

観音岳地蔵岳は登山者が少なく、トレースはあるものの一部途切れていたり、短い距離ながら膝ラッセルとなる場所もあります。一部登山道がわかりにくくなっている場所もあり注意です。
個人的には観音岳までは余裕がありましたし、観音岳からみた地蔵岳は近そうに見えたのですが、観音岳地蔵岳間のピストンでかなり体力を持って行かれました...。

 

登山内容

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登山口。AM2時スタート。 鳳凰三山は初めてなので、ここから登るのも初めて。

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夜叉神峠小屋 ここまでコースタイム1時間 標高差400mでコースタイム1時間って結構厳しくないですか? ほぼコースタイム通りだったので、この先13時間以上かかるのかと途方に暮れる。

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夜叉神峠の看板 このときはなにげなく撮ったけど、下山時に絶景が待っていてびっくり。

この先、苺平までの稜線がガチガチに凍結しており、チェーンスパイクをつけました。
昼頃の下山時でも同様だったので一日中凍結しているみたいです。

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南御室小屋に到着

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外トイレあり。要チップです。男の小便所はワイルドスタイルです。 大便所はみてないですが、おそらく紙は必要でしょう。

南御室小屋からの出だしで急な坂道があるので、ここでアイゼンつけるのがベストだと思います。その先はあまりアイゼンのありがたみのあるような急坂は少ないですが。

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森林限界に出ると白峰三山がお出迎え

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花崗岩特有の白砂を歩かされることも多々あり。

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富士山はどこにいるでしょうか? 快晴なのに強風のためか春霞で富士山はっきり見えず・・・。 実は本当は本日富士山に登るつもりが、強風予報だったので急遽鳳凰三山に変更したのです。

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薬師岳小屋  はじめてきましたがいいところに建ってますね。 夏にも一度来てみたいと思いました。

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強風でしたが気温が低くないので、この日はハードシェルなしでアークテリクスのプロトンFLで登りましたが特に問題なし。 プロトンFLは防風性、防寒性、透湿性のバランスがよく、おすすめです。

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鳳凰三山1座目 薬師岳 白峰三山がきれいに見えます。 広々とした山頂で風がなければのんびり出来そう。

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薬師岳は素通りで観音岳

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八ヶ岳 いつも北西か西からしか見ていないので、南西からみる八ヶ岳は新鮮でした。

この角度からみると八ヶ岳がぎゅっと集まって確かに一つの山に見えますね。八ヶ岳と富士山の争いはご存じですか?

昔、八ヶ岳は富士山よりも高かったけど、富士山が起こって八ヶ岳の頭をたたいたら八つに割れたらしいですよ。

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観音岳山頂からみた地蔵岳 赤抜沢ノ頭とオベリスク、その後には甲斐駒ヶ岳

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観音岳標識 ここは風下で暖かいので休憩しました。

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赤抜沢ノ頭とオベリスク   観音岳からみた地蔵岳は近そうだったのに意外に遠くて道も悪く強風もでてきてつらかった・・・。

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地蔵岳まで行く人は少ないらしく雪山らしい感じになります。

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オベリスク

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地蔵岳山頂?  地蔵がいっぱいあるが、岳というよりもコル。地蔵の後ろには甲斐駒ヶ岳があっていい感じ。

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さすがにコルが山頂ではないだろうと、もう少しオベリスクに近づくとさらに一体地蔵を発見。 地蔵岳という看板は発見できず。これ以上オベリスクに登るのは大変そうだし、見える範囲無いには標識がないので、勝手にココを地蔵岳ということにした(後日調べるともう少し鳳凰小屋方向に回り込むと標識があるらしい)。

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自称地蔵岳山頂にて

というわけで、ここが山頂ということにして、引き返しました。

すでにこのときにはかなり疲れていたので、風も強いし、下山はあまり写真も撮らずにさっさと降りました。

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下山は疲れてたのでほとんど写真ありません。いきなり夜叉神峠へ。 登りは真っ暗でわからなかったけど、ここは白峰三山をみるベストスポットでした。おそらくここまでだけと思われるハイキングの人達を大勢見かけました。

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確かにこの景色は見に来る価値はありますね。 駐車場から1時間だし。



まとめ

結果的には予報通り昼前には鳳凰三山でもかなりの強風になりました。


ヤマテン予報では18m/sでしたが、体感もそのぐらいだったので、富士山に行かなくて良かったかなと思ってます。

鳳凰三山のヤマレコを調べると夜叉神峠からはほとんどが観音岳までで地蔵岳まで行くレポは少数派でした(観音岳が最高峰だから?)。
でも鳳凰三山というくらいだから三山とも登りたかったし、富士山敗退の悔しさを払拭するためにも、10時には引き返そうと決めて2時スタートで地蔵岳を目指しました。

観音岳まではわりと余力を残していましたが、そこから先がつらかった。
最近は体力的にきつい登山をしてなかったから久々にきつかったですが、充実した登山ができて景色も最高で大満足でした。

帰宅後は片付けもそこそこに12時間ぐらい寝ました(^_^;)

 

安全登山をするには 〜ATを越えないペースで歩く〜

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AT(嫌気性代謝閾値)を超えた負荷量では「疲労が蓄積しやすい」、「心臓病を発症するリスクが上がる」と言われています。
年齢を重ねても安全に登山を楽しむためにはATを把握して登山を行う事が有用です。

(ATって何だっけ?という人はコチラ

 

登山中にATを把握して歩く

では、どのようにして登山中にATを越えているかどうか把握すればいいのでしょうか?
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①自覚症状を目安にする
②心拍数を目安にする
 ②-1 予測心拍数を使う
 ②-2 CPXで測定したATに相当する心拍数を使う
 
以上の方法があります。
「②-2 CPXで測定した心拍数を使う」のが最も正確ではありますが、お金と時間がかかるため、簡便な方法として「自覚症状」「予測心拍数」を目安にする方法をお示します。
 

自覚症状で適切な登高ペース(AT)を把握する 

「①自覚症状を目安にする」ためにはBorg(ボルグ)指数というものを使います。
 
Borg指数とは下図に示した表です。

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主観的運動強度ともいい、その名のとおり、主観的な(自分で感じた)運動の強度です。
表に示すような「きつさ」を6〜20の数値で表現します。
 
例えば、山頂直下の急登で「かなりきつい」と感じれば、それはBorg17です。
平坦な登山道を歩いていて「楽」であれば、Borg11です。
 

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上図のとおりBorg12〜13を越えると、血中乳酸濃度が急上昇することが知られており、これを乳酸閾値といいます。
乳酸閾値はおおむねATに相当します。
 
したがって、
Borg12〜13(きついと感じる手前〜ややきつい)がATに相当するペース」といわれています。
 
イメージとしては「会話が可能なペース」です。
 
登山中に友達との会話が息切れで途切れ途切れ担ってしまう場合にはATを越えている可能性があるので、少しペースを落としましょう。
 

心拍数で適切な登高ペース(AT)を把握する

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上図はCPXの結果のグラフです。

グラフはそれぞれ負荷量(茶色グラフ)酸素摂取量(黒グラフ)心拍数(青緑グラフ)を表しています。

最初は一定の負荷量で運動し(Warm up)、その後、徐々に負荷量が増加していきます。

これを見ていただくとわかりますが、

負荷量(茶色グラフ)酸素摂取量(黒グラフ)心拍数(青緑グラフ)は平行に推移しています。
 
つまり、
心拍数は酸素摂取量(METs)や負荷量と相関している」ため、
「ATにおける心拍数」を目安にすることで適切な登高ペース(AT)で登山をすることができます。
  

ATに相当する心拍数を知るには(簡易式)

「ATにおける心拍数」を知るにはCPX(心肺運動負荷試験)を行うのが最も正確です。

しかし、それにはお金と時間がかかるため簡易的に計算する方法があります。
 
最大心拍数」というものがあります。

最大心拍数とは、文字通り「個人における最大の心拍数」であり、
「数分間で疲労困憊になるような全力運動をしたときの心拍数」を測れば、自身の最大心拍数を知ることが出来ます。
 
最大心拍数のおよそ75%ぐらいがATに相当する」といわれています。
 
中高年者や体力の低い人が疲労困憊になるまで運動をして最大心拍数を測ることはリスクを伴います。
 
そこで代用する方法として、以下の式が有名です。
 「最大心拍数 = 220 - 年齢」
35歳であれば、最大心拍数は220-35=185拍/分
65歳であれば、最大心拍数は220-65=155拍/分
                 となります。
これを利用して、

「ATに相当する心拍数=(220ー年齢)×0.75 」と計算します。

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おそらく実際に登山中に心拍数を測ると、比較的容易に「ATに相当する心拍数」を越えてしまうと思います。
普段はそれだけリスクの高い登り方をしているということです。
 
レーニングを行うことで、同じペースで登っても心拍数は抑えられるはずなので、日頃からのトレーニングがとても大切です。

快晴強風の常念岳東尾根

 

 

2月下旬に常念岳東尾根に行ってきました。

1年前の3月にも同ルートで常念岳を目指し、テントを忘れるという自分登山史上最悪の忘れ物をして敗退したという苦い記憶を持つルートのリベンジです。

常念岳は勤務先からも毎日見ている山なので、ぜひとも積雪期に登りたくリトライしてきました。

 

予報では快晴ですが、強風予報。

史上稀に見る暖冬のなか厳冬期とはいえ厳冬期と言い切れない常念岳はどのような山だったのでしょうか?

DAY1

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朝5時50分、須砂戸ゲートを越えて出発。暖冬ですがこの日はうっすら雪が舞う中スタートしました。

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林道歩きをしている最中に夜が明けた。翌日の下山時にはほとんど雪がなくなっていたが、この日はうっすらと積雪しており、中には凍結した路面もあり。

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バリエーションルートとは思えないぐらいわかりやすい入り口

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鉄塔から先は笹藪ルート。この日は気温が高く袖をまくって登っていたが、うっすら雪が積もっているせいで笹藪に乗った雪が降り注いで冷たくかなり不快。

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ひたすら笹藪を登り....

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この日は暴風雪予報のため1955m峰を越えると樹林帯にもかかわらず地吹雪が頻発。風が強い感じ、この写真で伝わりますかね。

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2178m峰を越えたコルでテント設営。本当は前常念岳が見える森林限界ギリギリにテントを張りたかったけど、強風予報のため安全をとって樹林帯にテントを張りました。

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トイレまでの路

初日は強風をさけて樹林帯でテント設営。

時間があったのでトイレをしっかり作るなど快適なテント場を作成。

夕方頃晴れてきたので前常念岳を見に行こうかとも思いましたが、すでにトレースは埋まっておりダウンシューズで歩けるレベルではないため、改めて登山靴を履くのもめんどくさく、テントでごろごろして早めに寝ました。

 

DAY2

翌朝3時起床。テント内は呼気で凍結しているがさほど寒くはない。

パスタ、パン、チーズを食べて4時には出発。

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翌朝4時に出発。3:30出発での山頂ご来光も検討しましたが、強風の中でのご来光待ちはつらいと判断。実際に山頂に登った感じではこのときの判断は正解でした。

1日目は暴風雪のためにすれ違った人全員が敗退していました。そのため2日目のアタック日はうっすらとしたトレースはあるものの基本的に山頂までの全行程がラッセルでした。

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ご来光直前。登ってきたルートを振り返って。強風の感じが伝わるでしょうか?

2日目は本当に風が強く快晴ではあったものの地吹雪のためにほとんど前が見えず、トレースも残っていないのでルートファインディングが大変でした。

厳冬期とはいえ暖冬なのであまり期待していませんでしたが、ルートファインディングしながらラッセルをし、ときには耐風姿勢で強風をしのぎながら登る雪山は久しぶりで楽しかったです。

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常念岳まで来ると穂高連峰が神々しくお出迎え

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前常念まで来ると目的の常念岳がはっきりとみえます。

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夜明け直前。八ヶ岳と富士山と松本の町並み?

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ご来光

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常念岳のモルゲンロートは手前のピークでイマイチの写真に

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常念岳山頂まであと少し! なかなかの急登でカリカリしてましたが、気温がそこまで低くないので、アイゼンはしっかり効く感じ。 本当の厳冬期ならアイスバーンで怖いんだろうなぁと思いました。

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常念岳に登頂!穂高岳槍ヶ岳もばっちり。

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槍ヶ岳と影常念岳

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南は乗鞍、御嶽から...

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北は白馬連峰まで全部見えました。

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この日は終始強風のため、絶景ですがさっさと下山。

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森林限界手前から前常念方向を振り返って

この日はずっと先頭を歩いていたので終始ラッセルでしたが、その後大勢登ってきたので下山時にはしっかりとトレースがついていました。

何人かの方に「トレースありがとうございました」と言われてなんだかうれしかったです。

 

この後はテントを回収してさっさと下山へ。

下の方は気温が高く1日目よりも明らかに融雪していました。

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須砂戸ゲート手前から常念岳を振り返って。たった5時間前まであの山頂に立っていたと思うと不思議な気持ちになりました。



まとめ

昨年3月に常念岳東尾根に登ろうとして、いざテントを張ろうとしたらポールが間違っていることが判明し、止むを得ず下山してきた苦い思い出のある山(テント泊でこんな失態をしたのは後にも先にもこの時が唯一)。

厳冬期らしから雪の少なさでしたが、前日、1日目は降雪があり、そこからの強風快晴の山頂アタックで満足の登山でした。自分でトレースをつけられたのが満足です。

気がつけば今年初めてのテント泊。久々の重装備で最後の方は肩が痛かったのが反省点。
ちゃんとトレーニングしないといけないなぁと思いました。












 









山岳遭難死亡の約20%は心臓突然死

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登山における3大死因

 
登山における3大死因は、

 ①外傷

 ②寒冷障害(低体温症・雪崩埋没)、

 ③心臓突然死

 

               と言われています。

実に山岳遭難死亡の約20%は心臓突然死とされています。

登山中に滑落外傷や低体温で死ぬ可能性は想定していても、心臓突然死を想定している登山者は少ないのではないでしょうか?

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しかも、薬科無いことに山で突然死された方の多くは心臓病の既往歴はありません。

つまり、自覚症状がない「隠れ心臓病」なのです。 

登山中の突然死の原因 〜急性心筋梗塞とは?〜

登山中の突然死で一番多い原因は、急性心筋梗塞です。
心臓の筋肉に栄養を補給している冠動脈と呼ばれる血管が閉塞することで、心筋壊死を起こす病気です。

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 また、多くの方が誤解されていますが、心筋梗塞の大半は「前兆がありません」

これが山で心臓突然死をきたす方が心臓病の既往歴がないことの一因です。

 

山岳遭難死の特徴

山での心臓突然死は、
「登山初日の昼前の登りが多い」
「空腹時間や脱水時間が長いと多い」
などの特徴があります。

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これらはいずれも交感神経活性(体の緊張)が高まっている事と関連します。
 
交感神経活性が高まると、血圧上昇や心拍数の上昇が起こりやすく、もともと冠動脈にプラーク(動脈硬化)があると、血管壁にシェアストレスがかかり、プラークが破綻するのです(ニキビが破れるイメージ)。
すると、血管内に血栓がわいて、突然血管が閉塞することで、心筋梗塞を発症します(下図)。

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まとめ

以上をまとめると、
・山岳遭難死のおよそ20%は心臓突然死であり、その多くは心筋梗塞
・登山中の過剰な交感神経活性が心筋梗塞の発症に関与する
ということになります。
 
登山中の心臓突然死を予防する方法は2つ考えられます。
 
① 事前に検診をきちんと受けて病気の有無を把握、管理すること
②「過剰な交感神経活性緊張」を起こさないように登山すること
です。

②についてはいずれ改めてお話しします。

 

ちなみに、山岳遭難死(突然死に限らず)の95.5%は40歳以上が起こしています。

20代、30代の方は山ではめったに死にません。

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40代以上の方は、ぜひ年に1回ぐらいは検診を受けて下さい。
その際には「運動負荷検査」「心臓超音波検査」が項目に入っているものをお勧めします。

www.chushin-miniren.gr.jp

CPX(心肺運動負荷試験)とは?

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 CPX(心肺運動負荷試験)とは?

①運動負荷をかけないと隠れ心臓病は明らかにならない。
②呼気ガス分析を行う事でMETsが測れる。
  →運動耐容能(体力レベル)が客観的に評価できる
 
以上の2つの理由から当院の登山者検診では心肺運動負荷試験を行っています。
 
ちなみに心肺運動負荷試験のことをCPXと呼びます。
英語でいうとCardioPulmonary Exercise Testなので正確にはCPETですが、一般的にはCPXで通っています。
 

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CPXとは上図のように血圧、酸素飽和度、心電図、呼気ガス分析を行いながら運動負荷を行います。
運動負荷の方法にはトレッドミル(坂道歩行)とエルゴメーター(エアロバイク)がありますが、現在当院ではエルゴメーターで行っています。
それぞれ一長一短があるのですが、今日は割愛します。
 

なぜ登山者に対してCPXが必要なのか?


登山者に対してCPXを行う意味は2つあると考えています。
 1. 「心臓病の検出」
 2. 「運動耐容能の評価」
 


1. 「心臓病の検出」
心電図を記録しながら運動負荷を行うことで、狭心症不整脈が誘発できます。
実際にCPX中に心室頻拍(致死的不整脈)が誘発されて、後日カテーテル治療を行った方もいらっしゃいます。 
 
医療関係者でないと意外と知らないと思いますが、
安静時の心電図では狭心症は診断できません
運動負荷をかけて初めて狭心症の所見がでてきます(下図の赤丸)。

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2. 「運動耐容能の評価」
下図は「ワッサーマンの歯車」と言われています。
このワッサーマンの歯車でいう入口(吸気≒酸素摂取量)と出口(呼気≒二酸化炭素排泄量)を呼気ガス分析で調べることで、歯車全体、すなわち肺、心臓、循環、筋肉といった全身の運動耐容能をチェック出来るのが特徴です。

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CPXで計測できる指標

Peak VO2とは?

CPXで測定できる運動耐容能は、Peak VO2(ピークブイオーツー)と呼ばれ、日本語では最高酸素摂取量といいます。
 
Peak VO2は文字通り「酸素摂取量の最高値」。
すなわち、当人にとって最大負荷を行っているときの酸素摂取量です。
以前に「酸素摂取量=エネルギー消費量」であることをお話ししました
したがって、

 Peak VO2 = 最大負荷時のエネルギー消費量 = 運動耐容能
となります。

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要するにPeak VO2は被験者が実施可能な最大負荷量(運動限界≒運動耐容能)を表しているので、例えば、CPXの結果、Peak VO2=10METsと評価された人は、10METs程度の運動は可能ということになります。

METs(メッツ)って何だっけ?という人はコチラ
 
 
Peak VO2は比較的短時間の運動耐容能を示しているので、中距離走などはこの数値が如実に成績に反映されます。
 
以前に病院職員を集めて「光城山全力登高テスト」という検証を行いました。
事前にCPXを行い、Peak VO2の数値から光城山の全力での登頂タイムを予測する実験です。
全力登高なので、通常の登山よりも中距離走に近いイメージです。
 
光城山というのは安曇野市にある標高912mの低山で、登山口〜山頂までの標高差は307mで登りのコースタイムは40分です。
春には登山口〜山頂まで桜並木が続いており、山頂からは桜ごしの残雪の北アルプスがみられるおすすめの低山です。
 
実験結果は下図の通りですが、かなり精度の良い結果が得られました。
これは比較的短い距離を全力(運動限界のペース)で登ってもらっているため、Peak VO2が反映された結果だと思います。
実際の登山ではもっとゆっくり長時間かけて登るので、正確なタイム予測は難しいです。

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ということでPeak VO2がその人の運動耐容能(運動限界)を反映するということがわかってもらえたでしょうか?

 

ATとは?

安全登山を行うためには「AT」という概念が有用です
 
ATとはAnaerobic Thresholdの略で、日本語でいうと「嫌気性代謝閾値」です。「無酸素性代謝閾値」とも言いますがコッチのほうがイメージしやすいかもしれません。
 
以前の「METsってご存じですか?」で書いたようにヒトは酸素によるエネルギー産生(有酸素性エネルギー代謝)を前提にできています。
したがって登山のようにゆっくりとした運動では基本的には有酸素運動が主体になります。

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上図を見て下さい。
横軸が時間で、縦軸が負荷量です。
 
時間とともに負荷量が増えていく運動、
例えば「エアロバイクを漕いでいて徐々にペダルが重くなるような運動」を思い浮かべて下さい。
あるいは「一定の傾斜の上り坂を最初はゆっくりで徐々にペースを上げて登っていく」でもかまいません。
 
①最初は、有酸素性エネルギー代謝すなわち酸素を使ったエネルギー産生のみで運動が可能です(=有酸素運動)。
②徐々に負荷量が増えていくので、それに伴い酸素摂取量も増やしてエネルギー産生をしていきます。
③ある地点で有酸素性エネルギー代謝の限界に達して、それ以上の負荷量をまかなうためには無酸素性エネルギー代謝(≒無酸素運動)が必要になります
 
この③のポイントを「AT=嫌気性代謝閾値=無酸素性閾値と呼びます。
 
すわなち、
「ATとは、有酸素運動能力の指標」となります。

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ATを越える負荷量になると、乳酸産生が亢進し、交感神経支配が有意になります。
その結果として、
 
疲労しやすい → 判断ミスによる道迷いや滑落など遭難につながる
心拍数・血圧が上昇しやすい → 不整脈心筋梗塞心不全の発症リスクが上がる
 
など、登山を行う上でリスクを抱えることになります。
 
したがって、ある程度の年齢になると「AT以下の負荷量で登山をすることが重要」になります。
 
20代、30代の方は無理をして登山をしても突然死リスクや遭難するリスクはさほど高くありませんが、60代以上の方はATまでの負荷量で登山することをおすすめします。
「若い頃は激しい登山をしていた方」も年齢相応の登り方、楽しみ方に徐々に変えていただけるといいと思います。