Mountain Kuma’s Blog

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山登り好きな循環器内科医のブログです。

安全登山をするには 〜ATを越えないペースで歩く〜

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AT(嫌気性代謝閾値)を超えた負荷量では「疲労が蓄積しやすい」、「心臓病を発症するリスクが上がる」と言われています。
年齢を重ねても安全に登山を楽しむためにはATを把握して登山を行う事が有用です。

(ATって何だっけ?という人はコチラ

 

登山中にATを把握して歩く

では、どのようにして登山中にATを越えているかどうか把握すればいいのでしょうか?
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①自覚症状を目安にする
②心拍数を目安にする
 ②-1 予測心拍数を使う
 ②-2 CPXで測定したATに相当する心拍数を使う
 
以上の方法があります。
「②-2 CPXで測定した心拍数を使う」のが最も正確ではありますが、お金と時間がかかるため、簡便な方法として「自覚症状」「予測心拍数」を目安にする方法をお示します。
 

自覚症状で適切な登高ペース(AT)を把握する 

「①自覚症状を目安にする」ためにはBorg(ボルグ)指数というものを使います。
 
Borg指数とは下図に示した表です。

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主観的運動強度ともいい、その名のとおり、主観的な(自分で感じた)運動の強度です。
表に示すような「きつさ」を6〜20の数値で表現します。
 
例えば、山頂直下の急登で「かなりきつい」と感じれば、それはBorg17です。
平坦な登山道を歩いていて「楽」であれば、Borg11です。
 

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上図のとおりBorg12〜13を越えると、血中乳酸濃度が急上昇することが知られており、これを乳酸閾値といいます。
乳酸閾値はおおむねATに相当します。
 
したがって、
Borg12〜13(きついと感じる手前〜ややきつい)がATに相当するペース」といわれています。
 
イメージとしては「会話が可能なペース」です。
 
登山中に友達との会話が息切れで途切れ途切れ担ってしまう場合にはATを越えている可能性があるので、少しペースを落としましょう。
 

心拍数で適切な登高ペース(AT)を把握する

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上図はCPXの結果のグラフです。

グラフはそれぞれ負荷量(茶色グラフ)酸素摂取量(黒グラフ)心拍数(青緑グラフ)を表しています。

最初は一定の負荷量で運動し(Warm up)、その後、徐々に負荷量が増加していきます。

これを見ていただくとわかりますが、

負荷量(茶色グラフ)酸素摂取量(黒グラフ)心拍数(青緑グラフ)は平行に推移しています。
 
つまり、
心拍数は酸素摂取量(METs)や負荷量と相関している」ため、
「ATにおける心拍数」を目安にすることで適切な登高ペース(AT)で登山をすることができます。
  

ATに相当する心拍数を知るには(簡易式)

「ATにおける心拍数」を知るにはCPX(心肺運動負荷試験)を行うのが最も正確です。

しかし、それにはお金と時間がかかるため簡易的に計算する方法があります。
 
最大心拍数」というものがあります。

最大心拍数とは、文字通り「個人における最大の心拍数」であり、
「数分間で疲労困憊になるような全力運動をしたときの心拍数」を測れば、自身の最大心拍数を知ることが出来ます。
 
最大心拍数のおよそ75%ぐらいがATに相当する」といわれています。
 
中高年者や体力の低い人が疲労困憊になるまで運動をして最大心拍数を測ることはリスクを伴います。
 
そこで代用する方法として、以下の式が有名です。
 「最大心拍数 = 220 - 年齢」
35歳であれば、最大心拍数は220-35=185拍/分
65歳であれば、最大心拍数は220-65=155拍/分
                 となります。
これを利用して、

「ATに相当する心拍数=(220ー年齢)×0.75 」と計算します。

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おそらく実際に登山中に心拍数を測ると、比較的容易に「ATに相当する心拍数」を越えてしまうと思います。
普段はそれだけリスクの高い登り方をしているということです。
 
レーニングを行うことで、同じペースで登っても心拍数は抑えられるはずなので、日頃からのトレーニングがとても大切です。